何度もやり直せないからこそ失敗できないのが事業承継というモノです。しかも、経営者だけでなく従業員や取引先にとっても影響を与える大仕事と言えるでしょう。とはいえ、早めの対策が重要だと分かっていても気軽に取りかかれないのも事実でしょう。そこで今回は、準備を始めるべき具体的な時期をはじめ手法の種類や特徴、親族や社内で後継者が見つからなかった時の対処法など事業承継を円滑に進めるためのポイントについてまとめてみました。

事業承継に向けた対策が必要となる理由

創業100年を超える老舗企業が全国に33,259社も存在する日本は、世界的に見ても企業長寿大国として広く知られています。

ところが、そんな日本でも年々難しさを増しているのが「事業承継」の問題です。事実、2014年1月~2016年1月に全国289,937社を対象に行われた帝国データバンクの実態調査によると、全体の後継者不在率が66.1%にも達していたと報告されています。特に懸念されるのが、老舗企業のうち最も多い41.5%を占めている年商規模1億円未満の中小企業です。

60歳代後半の経営者が最も多いうえ、後継者不在率が78.2%と最も高い数値を示しています。

もちろん、事業承継の後継者は親族に限定されてはいませんので従業員もしくは第三者に承継させることも可能です。
とはいえ、財産の分配がメインとなる単純な遺産相続のように短期の手続きだけで済まないのが事業承継の特徴となります。創業者の企業理念をはじめ具体的な経営スキーム、取引先との信頼関係の築き方から成長への道筋まであらゆる側面を引き継がなければなりません。

親族に後継者がいても相当な準備期間が必要なのですから、従業員や第三者に引き継がせる場合はなおさらでしょう。中には事業承継をきっかけに何代も続いた事業が衰退してしまった、後継者問題で会社が分裂してしまった…などの理由からわずか数年で廃業を余儀なくされた企業も少なくありません。

何より重要なのは、後継者に引き継がせた後も事業が滞りなく進み企業が順調に成長していけるかどうかになります。
あらかじめ事業承継の対策を取りつつ時間をかけて取り組んでいくことで、事業の衰退や社内の分裂が避けられるのです。

また、従業員に対しては「長く勤めていける会社」取引先に対しては「今後も安心して取引できる会社」だと印象づける必要があります。そのためには、適切なタイミングで事業承継を行うのも重要なポイントです。十分な準備期間を設けていない突然の事業承継は、会社経営に欠かせない従業員をはじめ取引先の企業や融資先に不安を抱かせてしまいます。

事業承継を構成する3つの要素

事業承継を端的に説明すると「会社を構成するさまざまな財産を後継者に引き継がせる作業」と表現できますが、ここで言う財産とは具体的に「人」「資産」「知的資産」という3つの要素から成り立っています。

第一に挙げられるのが「人の承継」、つまり経営権を滞りなく後継者に移譲させる作業です。特に中小企業では、取引先や同業者などの人脈が経営者本人の人柄や交友関係に依存しているケースが多いのが特徴でしょう。仕事上の取引先とは言え、長年かけて培ってきた信頼関係を無視する訳にはいきません。そのため、単純な業績だけでなく後継者の資質によっても事業運営の円滑さが大きく左右されてしまうのです。

第二に挙げられる「資産の承継」を大きく分類すると「モノ」と「カネ」に分けられます。モノとしては対象企業の株式をはじめ設備や不動産といった事業用資産、カネとしては事業資金や借入金などが代表的です。

第三に挙げられる「知的資産の承継」には、経営理念はもちろん先輩から後輩へと受け継がれてきた優れた技術や技能といったノウハウ、経営者の信用や取引先との人脈などが当てはまります。会社の強みであるブランド力と言った方が分かりやすいかもしれません。事業承継後も企業の競争力を維持していくためには、まず現経営者が自社の価値とも言える知的資産が何なのかを見極めるのが第一歩です。後継者に改善の余地を残しつつ、骨子となる強みを最大限に活かせるように引き継いでいく必要があります。

事業承継計画を立てるときのポイント

事業承継計画と言っても絶対的な手順が決まっている訳ではありませんが、よりスムーズに行うためには「適切な現状把握」から始めるべきでしょう。

会社が保有する経営資源を把握するには、自社株式の数とその評価額を確認しておく必要があります。加えて、売上動向や決算処理手続きといった経営状況を把握するにつれて経営リスクといった問題点が浮き彫りになってきますので、承継後の事業運営に支障が出ないようにあらかじめ改善方法についても検討しておきましょう。

技術やノウハウといった知的資産、主力製品などを再確認しておくことで伸ばすべき強みと改善すべき弱点が明確になってきます。特に、親族から後継者を選ぶ時は要注意。この場合は一種の相続にあたりますので、資産だけでなく課題についても解決策を立てて備えておく必要があるのです。

ちなみに、現状を把握しておくべきなのは会社の資産だけではありません。現経営者個人の資産状況、さらには債務にいたるまで同じように整理しておく必要があります。現経営者個人の資産状況が曖昧だと、後継者に事業承継するタイミングが見極められないばかりか引退後のプランも立てられませんので注意が必要です。

もちろん、後継者選びも避けては通れない難関と言えるでしょう。ただし、後継者が決まっていないからと言って必ずしも事業承継計画が立てられない訳ではありません。準備を進めながら、誰に承継すべきか検討していくのも一つの方法です。とはいえ、親族内承継が可能かどうかをはじめ親族外承継の候補者選びなどは早めに検討しておくべきでしょう。どちらもムリであればM&Aなどを通じて社外へ引き継ぐ方法もありますが、3種類のうちどの事業承継を選ぶかによってプロセスも変わってきます。

後継者教育で注意すべき点

後継者の育成にマニュアルはありませんが、少なくとも押えておきたいポイントが2つほどあります。

1つめは育成にかける期間についてです。後継者の育成プランは本人の経営手腕を磨くために不可欠ですが、むしろ従業員や取引先と良好な関係を築くために必要なプロセスと言えるでしょう。経営者が変わるということは、家庭の大黒柱が変わるのと同じこと。あまりにも育成期間が短く馴染みのない後継者に承継されると、「事業が縮小されるのでは…」と従業員を不安にさせたり「今までの関係が維持できないのでは…」と取引先を疑心暗鬼にさせたりと、混乱の原因に成り兼ねません。だからこそ、5~10年ほどの準備期間を設けて時間をかけて徐々に育成していく必要があるのです。

2つめに重要なのが、経営者としてのマインドについてです。今までの経験から自分の考え方を伝承する経営者が多いようですが、押し付けすぎるのも考えモノ。アイデアを否定された後継者は、自信が持てないばかりか強みであるチャレンジ精神まで萎縮し兼ねません。逆に、たとえ拙く思えても「挑戦してみろ」の一言が後継者のモチベーションアップに繋がるのです。そのうえで、失敗しても資金繰りで困らないように備えておくのが現経営者の役目になります。自社株の購入資金を用意しておく、あるいは不採算部門を整理しておくなどピンチに備えて手を打っておきましょう。

親族内承継のメリットとデメリット

自分の子供をはじめ親族に事業を引き継ぐ方法を「親族内承継」と言い、4つのメリットが挙げられます。第一に、他の方法に比べて格段に早い段階で後継者を選定できる分、育成にかけられる期間が十分に確保できるという点でしょう。しかも、家族として大切にしている理念と経営理念が共通しているケースが多いため自然と身に付いた考え方を経営に活かせるうえ、経営者の一族として影響を残せるのも親族内承継ならではの強みです。さらに、従業員はもちろん社外からも受け入れられやすい傾向があります。

その一方で、昔に比べて子供の人数が少なくなっているうえ親とは全く畑違いの仕事を選ぶケースが多いのも事実です。たとえ大家族でも後継者としての資質に恵まれている人材がいるとは限りませんし、親族という理由だけで適任者以外に大切な会社を任せることもできません。また、第三者であれば長所も短所も客観的に評価できますが、身内だからこそ後継者選びから育成にいたるまで甘くなってしまうのもデメリットと言えるでしょう。

親族外承継が持つ特徴

対象の企業に勤めている従業員や役員、新たに雇った経営の専門家などに引き継ぐ方法を「親族外承継」と言います。

最大のメリットは、社内の状況に精通しているという点でしょう。そのため、親族内承継ほど早くから準備に取りかかることはできないものの一から社内の状況を把握する手間が省ける分だけ、育成にあてる時間を大幅に短縮できるのです。しかも社内外から広く後継者候補を集めることができるので、他の従業員からの信頼度やリーダーとして周囲から認められているか、経験値なども参考になります。

ただし、たとえどんなに経営者として有望な人材であっても肝心の株式を取得するために必要な資金力を持ち合わせているとは限りません。加えて経営者の個人保証をはじめ担保設定などを後継者に切り替える難しさなど、決してハードルが低いとは言えないのが実情です。

M&Aによる第三者への事業承継

会社を任せられる後継者がいなくても事業だけは残したい…そんな悩める経営者に注目されているのが、M&Aによる第三者への事業承継です。

経営者としての能力やリスクを察知する嗅覚などは、決して一朝一夕に身につくものではありません。その点、M&Aによる第三者への事業承継なら後継者を育成する必要がない分、他の方法に比べて会社や事業そのものを整理する期間が短くて済みます。

また、売却益が得られるのも経営者にとっては大きなメリットとなります。事業承継後に新たなビジネスを立ち上げる人もいれば、ゆとりある第二の人生を満喫する人も少なくありません。つまり、引退後のプランが立てやすくなるだけでなく選択肢の幅まで広がるのです。

ただし、全ての条件が合う買い手企業を個人で探すのは簡単ではありません。売却価格はもちろん、従業員の雇用維持などの交渉も個人では限界があると言えるでしょう。もちろん、最終契約を締結すると同時に経営について関与する権利が消滅するため一抹の寂しさは否めません。

事業承継では税金面も意識しておく

事業承継において避けては通れないのが税金に関する問題です。親族内承継であれば相続税が、M&Aによる第三者への事業承継であれば所得税が発生しますので事前に対策を施しておくべきでしょう。事業承継で発生する税金の負担が重ければ重いほど、その後の経営を圧迫するリスクも高まってしまいます。

ちなみに、M&Aを通じて第三者へ事業承継を行う方法には多くのメリットがある反面、買い手企業を探すのも条件の折り合いをつけるのも個人では難しく、手続きに手間取るケースも珍しくありません。

そのため、地元の情報に精通したM&A専門会社や支援センターなど仲介機関に依頼するケースが多いようですが、支払う報酬についても考慮しておく必要があります。つまり、税金だけでなく費用面も含めて企業の経営状態を圧迫させない程度に抑えておくべきであり、適正なコンサルフィーを設定しているかどうかも仲介機関を選ぶ時のポイントとなるのです。

資金対策も適切に行う必要がある

適切な資金対策も、事業承継を行ううえで重要なポイントです。なぜなら、経営者が交代した途端に「取引先に支払い条件を変更された」「メインバンクだった金融機関の貸付条件が厳しくなった」など予期せぬトラブルに見舞われるケースも多く、先代との間で交わされた契約が必ずしも維持されるとは限らないのです。中には、ある程度の事業資金が確保されていなかったばかりに最初から資金繰りに苦労する後継者も少なくありません。

特に、会社の従業員や役員などに引き継ぐ親族外承継をはじめ充分な資産を持ち合わせていない後継者の場合は要注意です。自社株を購入することができないばかりか、承継後の経営状態が一気に不安定な状態に陥ってしまうケースも珍しくありません。だからこそ、まずは会社の資金繰りや業績の見通しなどを現経営者が把握してから対策案と一緒に後継者へ引き継ぐことが重要になります。つまり、事業承継後の経営を安定させられるかどうかだけでなく、従業員が安心して働けるかどうかも現経営者が担っている事前準備にかかっていると言っても過言ではありません。

政府が公表しているマニュアルを活用する

M&Aによる第三者への事業承継を行うならともかく、それ以外の方法を選択した場合は後継者の育成に5~10年ほどの長い期間をかけるのが一般的です。そのため、遅くとも60代を迎える頃になるとほとんどの経営者が本格的に事業承継について考え始めると言われています。とはいえ、よほど手広く商売をしている人でなければ人生に何度も経験しないのが事業承継というモノでしょう。

そもそも後継者を選ぶだけでも一苦労なのですから、「何から手を付けて良いのか分からない」「必要な資金を算出する方法が分からない」という人も多いでしょう。そんな悩める経営者にとって大きな助けとなってくれるのが、政府が公表している各種マニュアルの存在です。

政府は中小企業向けに作成した「事業承継マニュアル」や「事業承継ガイドライン」などを通して、事業承継に関する詳細な情報を発信しています。事業承継にはどんな重要性があるのかという基本的な考え方から選択肢の種類、具体的な手続き方法までを一通り把握できるのが特徴です。ある程度の基礎知識だけでも政府が用意したマニュアルで理解しておけば、専門家である税理士やM&A専門会社への相談もしやすくなるでしょう。

ちなみに、経済産業省では全国47都道府県に「事業引継ぎ支援センター」の窓口を設置して、第三者への承継を希望する中小企業や小規模事業者を支援しています。無料で相談できるのはもちろん、民間機関を通してM&Aを行う前のセカンドオピニオンにも対応してもらえますので、積極的に活用してみましょう。

事業承継税制についても把握しておく

事業承継は税負担が大きいことで知られていましたが、廃業に追い込まれる企業が急激に増えている近年では少し事情が変わってきているようです。
その代表格と言えるのが、後継者が納付すべき相続税および贈与税が最大で5年間も猶予される「事業承継税制」でしょう。相続税は80%、贈与税は全額が対象となっています。ただし、事業承継税制は誰もが無条件で適用できる制度ではありません。

相続もしくは贈与を行った時点の雇用者数の80%以上を5年間維持しなければならない「雇用確保要件」、20歳以上で尚且つ役員就任後3年を経過していなければならない「後継者の要件」など、数多くの条件を満たしている必要があります。ちなみに、納税猶予の申請手続きを受け付けているのは会社の所在地である都道府県の担当課です。

期間に余裕を持って取り組むことが大切

親族内承継もしくは親族外承継を選択した場合は、5~10年ほどの準備期間を設けてじっくりと取り組むのが円滑に進めるコツとなります。一方、会社や事業を売却して第三者に承継する方法はマッチングが難しいため、個人で進めるにはハードルが高いと言えるでしょう。だからと言って諦める必要はありません。

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